小さな個人商店がより集まって構成された、西荻窪という街。中央線の他の駅が大規模な駅前再開発事業などを経て、様変わりしてしまった現在にあっても、昔ながらのごちゃごちゃとした、ともすれば一見さんにとって割って入りにくい駅前の雰囲気を発し続けています。
そんな西荻窪の街だからこそ、手頃な案内図などがあればありがたい。そうした一見さんのニーズを汲み取ってということなのか、あるいは多分に商店街の自己満足的な性質もあってなのか、西荻の街はフリーペーパーとして発行する地図を量産しており、畢竟住人は地図という街の記録媒体を好んでいるに違いない、そんな紹介をこれまで何回かしてきました。
地図から手帖へ 西荻観光手帖
西荻商店街史の地層は、毎年乱発されるイベントの地図によって積み重ねられていくわけです。そうした基本線は守りつつ、最近では地図以外の記録媒体として、”手帖”というモノも現れるようになってきました。
コアなメディアに取り上げられることも多い、『西荻観光手帖』という手帖は、昨年の1月にフリーペーパーとして発行され、同じ月に行われた第一回西荻検定試験の公式テキストとされたこともあり、早々と印刷部数を配りきってしまったようです。そして、今年の3月1日には再刊、今度は1620円というそこそこのお値段で、西荻内の書店などで限定販売しています。再刊された西荻観光手帖は、やはり第二回の西荻検定の公式テキストの位置づけになっていますので、受験料もテキストも無料から始まった異色のご当地検定、西荻検定がどういう形に昇華されていくのかという個人的な疑問にも、解答が示されたように思います。
グルメの街のガイド 西荻ごちそう様手帖
そして。フリーペーパーの手帖第二弾として、『西荻ごちそう様手帖』というものが今月登場していました。観光手帖と同じく西荻窪商店連合会発行のこの手帖は、西荻の食べ物屋を個人店からチェーンまで等しく紹介するガイドブックとなっており、また西荻有名人による食に関するコラムも収録しています。フリーペーパーとは信じられない立派な出来。今後このガイドを携えて西荻の食べ歩きをする人も増えそうです。
手帖の冒頭には、西荻在住、日本一のカツ丼を提供する坂本屋を見出した山本益博氏が寄稿します。西荻窪の街に見られる面白い異質さは、江戸の振袖火事によって逃げてきた住民が持ってきた下町らしさであるとの論が刺激的です。
グルメガイドである以上、勿論この西荻ごちそう様手帖にも地図が収録されているのですが、こちらの地図はフリーペーパー地図のように賑やかな見た目ではなく、紹介した店の場所をただ番号で示すだけのものでした。フリーペーパーが一枚地図から冊子に変化したというのは、段々と西荻窪の面白さが認知されていった結果、訪問者が求める情報がより深いものになってきたという変化を表しているのかもしれません。さて次の手帖はどうなるのか、西荻窪に多数いると思われる地図勢の原理主義的復刻運動が起こるのか、そこのところにも勝手に期待しておきましょう。
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