吉祥寺の老舗焼き鳥屋「いせや」の公園店が7月に閉店し、建て替えをしているということは以前の記事で触れました。新装オープンは2013年予定だそうで、それまで一年間は本店の方に通って下さい、としても良いはずなのですが、そこは本店派と公園店派で客層に派閥が存在するのか、わざわざテナントを借りて公園店の仮店舗として営業を続けるようです。
思い返せば2006年、本店の改築工事の際もそうでした。そのときの仮店舗は、線路を超えて北口側のヨドバシ裏と呼ばれる一角にオープンしており、簡素なプレハブでした。周辺には昔からの飲み屋街(と、歓楽街)があり、年配の常連にもまあまあ入り易い雰囲気ながら、吉祥寺シアター方面からの若者の流れも狙える立地でした。この仮店舗は2008年6月、本店の新装オープンをもって閉店しています。
今回の公園店の仮店舗も、北口側、ヨドバシ付近ということは共通しています。しかしながら、道に大掛かりな看板などは出さず、地下1階のかなり見つけにくい場所にオープンしています。どうやら8月末から営業開始していたらしいのですが、しばらくは気付かなかったほどで、当初さしたる関心も無かったのですが、面白そうな試みをやっているという評判を聞き足を運んでみました。
店の場所は、吉祥寺を長く知る方々には旧ラオックス地階で通じましょう。あるいは、CLUB SEATAの向かいと言って判り易い方もいるかもしれません。ここのテナントは排気がしっかりとしているらしく、辺りに煙をまき散らし通行人を誘い込むことはありません。門構えは本当に簡素。天井はダクトがむき出しの状態で、いせやブランドの店だと言われないと気付かないくらいです。
提供する料理は、相も変わらず安心のいせやです。席数が少なく、また配膳までの障害もない店内なので、焼き鳥が温かいまま出てきます。そして、件の面白い試み、壁際の何席かに備え付けでiPadがあり、画面をタッチして注文ができるようになっています。
このiPad注文システムのためか、会計カウンターの裏にはノートPCが用意されていました。店の注文システム全てをiPadで置き換えているわけではなく、いまだ試験中のシステムであるように思えますが、こうした試みから改築後の公園店の姿と、いせやの戦略を予想することができそうです。
おそらく、2013年に新装オープンする公園店は、年配の常連には全く居心地の良くない、若者向けのいせやになるのでしょう。木造店舗の頃の二店舗は、ターゲッティングの違いが特に無かったため、客層が雑然としていてそれに気後れする新規客は見込めない状態でした。それに対して新装オープンする公園店は、既存の客層を引き受ける本店と異なり、若い人にも入り易い、いまどきの居食屋を目指すのではないかと思われます。その証左こそがiPadの導入であり、またクラブの向かいという若者以外の目に留まりにくい立地での仮営業ではないでしょうか。
実際のところ、私が訪れた日の仮設店舗の客は9割が若者でした。公園店にこだわり本店にはついぞ足を踏み入れたことはないぞ、という年配の常連の方も、この仮営業の姿を見て、次第に本店の方へと足を向けるようになるのでしょう。本物の昭和を知る人間が、イミテートを妥協して受け容れるとき、それが昭和の二度目の死なのかもしれません。
コメント
[…] そして、今回のハモニカ横丁ミタカが、いせやにおける仮店舗の位置付けに等しいのではないかということ。つまり、本来のハモニカ横丁のハコの寿命が刻々と迫っていて、リニューアル期間のお得意様の受け入れ先、としてハモニカ横丁ミタカの出店の意味があったのではないかと。 […]
[…] さて、貼り紙にはもう一つ気になる記述がありました。現在公園店の仮店舗として吉祥寺パーキングプラザで営業している北口店ですが、こちらは公園店の再開後も同じ場所で北口店としての営業を続けるそうです。 […]