東京チカラめし 西荻窪南口店

東京チカラめし 西荻窪南口店

吉野家、松屋、すき屋、なか卯などおなじみの顔ぶれによる価格競争が存在する牛丼業界。ここにさらなる新規参入をかけるなど、余程無謀なことのように思えます。しかしながら、この牛丼戦争に「焼き牛丼」という新たな切り口で参入を果たし、この一年出店数を順調に伸ばし続けるチェーンがあります。
居酒屋「月の雫」「東方見聞録」などで知られる三光マーケティングフーズの、「東京チカラめし」です。主に駅前立地を中心に、キャンペーン価格ながら既存チェーンとも渡り合う一杯280円の価格設定で戦いを挑みます。
この「東京チカラめし」ですが、吉祥寺には2011年10月に出店、西荻窪には2012年2月に出店しています。今回は西荻窪南口でもひときわ目立つオレンジの看板に誘われ、狭い階段を昇ったビル2階の店舗を訪ねました。

チカラめし看板

まるで昔からある店かのように堂々として

先客が誰もいなかったので、少し心配になりましたが、食券機で食券を購入し、1人シフトと思われる店員さんに渡します。注文から結構時間は要したと記憶するのですが、看板商品の焼き牛丼が出てきました。

東京チカラめし 焼き牛丼

東京チカラめし 焼き牛丼

見た目には、あまりにも無頓着というべきか。本当に焼き肉を数枚乗せたライスです。肉質についても、安価なお惣菜に良くある脂身の多い肉ではないため、かえってそれより劣る靴底のような肉ではないかと心配になります。
しかしながら一口頬張って、肉の柔らかさについては問題の無いレベルであると実感しました。味付けはお惣菜の焼肉弁当を少しくどくなくした感じです。他店の牛丼に入っている玉葱がなく、本当に肉のみ丼という点がマイナスと考えていましたが、この味のレベルならむしろ、他の牛丼に入っている玉葱の存在意義について考えはじめてしまいそうです。総評ですが、280円払って食べられるものの中では、比較的当たりの部類に入りそうです。付け合わせなしのコンビニの焼肉弁当と考えて、店内で座って食べられるという部分でトレードオフが生じているという納得ができそうです。

さて、味の感想だけでは語ることも少なくなってしまうので、何故飽和状態にある牛丼業界にチカラめしが新規参入できたのかという考察をしましょう。先述の通り西荻窪南口店の開店が2012年2月なのですが、同日西荻窪に進出したチェーンとして「伝説のすた丼屋」があります。こちらは価格帯として500円オーバーという、牛丼戦争価格の2倍の値段ゆえ正面きっての殴り込みではありませんが、チカラめし同様に出店地域を目覚ましく拡大中ということあって、参考にすることはできそうです。
すた丼屋はまず国立周辺の学生街に、ボリュームのあるメニューを提供する店として地位を確立しました。その後学生街に名の聞こえた店という箔もあり、国立の周縁から徐々にチェーン展開を成功させていきます。この辺りはラーメン二郎の拡大背景に良く似ていますね。そして現在では、主要駅には必ず見つけることができる程普遍的なチェーンになりました。価格帯を違えながらも、丼もの業界にしっかりと食い込むことができています。

チカラめしは、このすた丼の成功にヒントを見つけたのではないかと想像します。どこがヒントになったのかというと、すた丼の「すた」、このネーミングの一部分です。
吉野家の一号店が東京築地の市場にできたということからもわかるように、当初牛丼屋は労働者の為のスタミナ補給食を提供する店でした。チェーン展開で幹線道路沿いに出店が増えるようになってからも、大体2000年前後位まではスタミナ補給食のイメージがありました。個人的な体験になってしまいますが、徹夜仕事の夜食として買ってこられることが多かったですね。

ところがその後出店が飽和状態になり、各社値下げ合戦の牛丼戦争が勃発するに及んで、牛丼はファストフードとしてのイメージが強くなり、対照的にスタミナ食としてのイメージが薄れました。スタミナをつけたいと思った時にマクドナルドのビッグサイズメニューを想起しないように、牛丼もそうした需要の第一選択肢から外れて、その座をみすみす手放してしまったのです。

そこでチカラめしの登場です。メニューを実際に見た限り、他の牛丼に比べて特にスタミナ源となるような要素は無いのですが、店名に「チカラ」と入れることによって、牛丼がスタミナ食であるという再定義、明示を行ったのです。またその際に、牛丼全体のスタミナ食としての地位が復活してしまうと、競合にも同じくチャンスを与えてしまう、ということで、わざわざ「焼き牛丼」というひねりを加え差別化を図りました。実は、このチェーンにとって、「焼き牛丼」をどうしても提供したいという企業信念とか、あるいは源材料調達ルートへの強みとかそんなものは皆無なのではと思います。とにかく少しひねった牛丼であれば、あとは牛丼業界にネーミングだけで食い込めるという戦略、それだけの商品。そして確実な商品、ということだったのでしょう。

「チカラめし」が出来上がるまでの流れは、このように纏められるでしょう。

スタミナ食としての牛丼が登場。一般認知。

競合店との価格競争により、本来のスタミナ食としてのイメージが希薄に。

「すた丼」がチェーンとして成功。駅前一等地などでは、既存の牛丼チェーンが飽和状態であっても食い込めると証明。

「チカラめし」は「すた丼」ヒットの理由を分析し、ネーミングによるスタミナ食としての再定義で、牛丼の本来層に食い込むという戦略ができる。

全くの想像にすぎませんが、この一連の流れの中で、「すた丼」ネーミングの時点で訴求対象はあくまで学生だったが、チカラめしによる分析の段階において、牛丼の本来層への訴求力がはじめて評価される、という経緯なら、極上の食後感のストーリーです(笑)
次の一手が気になります。

(2014.1追記)
西荻窪南口店は、先頃閉店してしまいましたね。西荻窪の店だけでなく、チカラめし自体の店舗数が削減されている傾向にあるようです。
「次の一手が気になります」と書いたのは、爆発的な出店攻勢により認知度が上がった後の、次の手がないとまずいだろうという懸念によるところでした。
チカラめしの次の急成長チェーンとして、丼丸というチェーンが登場し、吉祥寺にも出店しているので、丼丸について書く記事で、チカラめしの失速についても考察しようと思います。

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コメント

  1. […] 外食チェーンに盛衰あり。以前勢いのあるチェーンとして紹介した、「東京チカラめし」ですが、紹介した西荻窪の店舗を含めて、店舗数削減のための閉店が相次いでいます。2012年9月に怒濤の勢いで100店舗を達成し、その後も出店攻勢をかけていましたが、一転、削減に転じた事で、現在の店舗数はまた100店舗程度に戻ってしまっているようです。 外食チェーンで大手の牙城に切り込んで行くには、勢いだけでは足らず、二の矢、三の矢と施策を続けていく必要があるのでしょうが、元々人件費と設備投資を切り詰めて開店攻勢の負担を減らしていたチェーンですから、あまり打てる手が多くはなかったのかもしれません。 […]