カフェに求めるものは人それぞれ。たとえばある人にとってカフェとは、仲の良い友達と周囲を気にすることなく駄弁って、時間を潰す場所。またある人にとってカフェとは、ノートと参考書を広げて勉強に没頭する場所。最近紹介記事を書いたお店を例に出すのならば、MOSS CORE Cafeのようなサードウェーブ系コーヒースタンドのカウンターに求めるのは、至高の一杯への珈琲求道的な感覚を研ぎすませる場所で、武蔵野珈琲店に求めるのは、芥川賞作家的な浮き世と付かず離れずの距離でしょうか。
坂道の途中に、あるべくしてあるカフェ
善福寺公園方面から石神井公園方面へ、三大湧水池のうちの2つを渡り歩くランダム・ルートな散歩をしていると、西武新宿線の上井草駅の東側をかすめるルートを使うことがあります。上井草駅南側の一帯から西武新宿線方面へは緩やかな登り坂となっており、善福寺公園方面から歩いてきた脚に疲労の洗礼を与えてくるのですが、登り坂の苦行がそろそろ終わろうかと言うところでふと右手を見ると、SLOPE(坂道)という店名のカフェが口を空いて待っています。
それはなんだか、長くゆるやかな坂道を登ってきた自分を褒めて肯定してくれているような感覚で、一息つく必要もないのについつい店内に吸い込まれてしまいます。考え事をしながら歩いてきて、登り坂の存在が全く意識に上らなかったとしても、SLOPEという店名を見て自分の居場所に気付き、肯定されるのです。正直、どのような広告よりも誘因効果の強い店名であると思うのですが、いかがでしょう。
SLOPEの店内は無機質ながら落ち着く
SLOPEが営業している時間には、店舗の前に本日のメニューを知らせる看板が出ています。
本日のブレンドと数種類の焼き菓子を手書きで書いただけの看板。店内入口脇には会計カウンター兼コーヒーの抽出場所があるのですが、背後の黒板に書かれたメニューはコーヒーのみ。要するにスペシャルティコーヒーが飲めるサードウェーブ系カフェなのですが、サードウェーブ系にありがちな神経質っぽさがなく、どことなくのんびりとしています。
客席は店内奥に。正方形のテーブルとそれを囲んでシンプルデザインの椅子が数セット置いてあり、壁や天井の装飾は最低限(話し声がよく響きそうです)。やはり一見すると無機質で寛げなさそうな印象を受ける店内です。ただ、店内照明であったり随所に配置された本棚であったりと無機質さを補う仕掛けに溢れており、サードウェーブ系の突き放した感じとも違う、独特の過ごし易さがあるのです。
コーヒーは、マロンブレンドという明るい色のブレンドを注文しました。焼き菓子類は他店のものであるようですが、バリエーションも多く頻繁にラインナップが変わるので魅力的です。
本を開きたくなるカフェ
店内の本棚には値札の付けられた本が並んでいます。『さかみち書店』と名付けられたコーナーのようで、一角文庫というインターネット通販&出張販売の中古書店さんが本を卸しているようです。手ぶらでコーヒーを飲みに行って、この『さかみち書店』ラインナップとの出会いを期待するも良し。あるいは読み進めたい文庫本を抱えていっても良し。空間の少しばかりの無機質さは、本でその空隙を埋めたいという気分を大いに起させます。
さてそれでは、冒頭のテーマに返ります。カフェに人は一体何を求めるか。私の場合のそれは、その場所でゆっくりしても良いというささやかな肯定感と、ほんの少しばかりただよう緊張感なのです。そういったことに気付かせてくれる、良い出会いでした。
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