昨今の自治体アンテナショップ事情と吉祥寺

アンテナショップと呼ばれる店舗形態があります。企業や自治体が商品のPR、反響調査などを行うために出店する店舗のことです。
企業のアンテナショップは、その戦略的な位置づけによってショールームやパイロットショップなどと言い換える事ができます。アンテナショップという呼称はその店舗の目的において漠然としているため、どちらかというと企業の戦略構想の中で使われる言葉ではなく、あくまで客視点から見える店舗の特殊性を反映した言葉であることが窺えます。ちょうどアンテナのイメージのように、情報の集約と限定的広報をしている場所(に見える)というのが、この言葉の指し示すところでしょう。
企業アンテナショップの出店する場所としては、事業所に併設、あるいは近隣というケース、それに加え反響の収集に便利な土地が選定されます。たとえば電器メーカであれば秋葉原や日本橋、高級ブランドであれば銀座や心斎橋などです。

昨今アンテナショップと言って多くの人が思い浮かべるのは、企業のアンテナショップではなく自治体のアンテナショップかもしれません。雑誌やTVでしばしばアンテナショップ特集が組まれるほどひとつのジャンルとしての隆盛は著しく、財団法人地域活性化センターの平成23年の調査によれば、自治体アンテナショップの数は平成2年から減る事無く増加、53店にまで達しているようです。自治体アンテナショップの出店場所については、まずあるのが自治体の都内出先機関の一角を間借りして営業というケース。それに加え、ブランド企業のアンテナショップよろしく東京駅近辺を狙って出店というケース。これらが主流であるため、銀座・有楽町エリアだけで22店の自治体アンテナショップがあり、このエリアはアンテナショップの一大メッカとなっています。

そうした自治体アンテナショップの出店事情ですが、最近ではテナント料の高い都心一等地を避け、郊外へ出店する動きも目立ってきたようです。

自治体アンテナショップ:東京郊外に相次ぎ誕生 経費減で(毎日新聞)

吉祥寺には、現在3店舗のアンテナショップがあります。くまもと県物産センターは吉祥寺の中ではテナント料が高そうな、元ダイヤ街ローズナードに出店しています。2005年の出店ですので、テナントの移り変わりが激しい吉祥寺でかなり健闘していることが窺えます。さらに2011年には売り場面積を大幅に拡張し、農産物を売る青空市場が追加されました。中道通りには高知県の高知屋と、武蔵野市友好都市の麦わら帽子があります。高知屋は2000年、麦わら帽子は2001年オープンですので、もう10年以上営業していることになります。先の新聞記事で触れられた郊外出店の動きにかなり先んじて、吉祥寺はアンテナショップの出店場所として選ばれていたのですね。

何故吉祥寺が自治体アンテナショップの出店先に選ばれたか、吉祥寺に開店するメリットは何なのか、少し考察を加えてみたいと思います。
まずはもちろん他の郊外地に比べ、吉祥寺という場所がプチブランドであるということ。地域外の住人もやってくるので、銀座ほどではないにしろ広報の場所として適当です。それに加えて、地域内の人間も沢山やってくるということ。ここが特に吉祥寺に出店する大きな理由となっているのではと推測します。
たとえば、銀座に地域産物を紹介する店を作ったとして、やってくる客の多くが野菜を抱えて帰ることは期待できません。どうしても、その場所で扱う商品の種類や量が限定されてしまいます。一方、住宅街中心の吉祥寺であれば地域の住人が野菜などの生鮮食品を大量買いしていくことも見込めます。必然紹介できる特産品のヴァリエーションが多くなり、地域を全面的にアピールできるでしょう。
吉祥寺住人が地域産品のお得意様になってくれるであろうという計算は、ある根拠によっても求められます。それは、紀ノ国屋、三浦屋といった高級食材スーパーが永らくこの地で営業しているということです。吉祥寺の住人は市価より高い食材を買う事もいとわないということですから、店先で地域の食材を紹介して、そのままあわよくば現地からお取り寄せをする客になってくれればというのが、吉祥寺での地域産品PRの一つの到達点かもしれません。

遠隔地に出店するアンテナショップは、地域にもたらす経済効果が計り難く、PRの特性上赤字垂れ流しも想定済みというものかもしれません。しかしながら、吉祥寺に出店するのであれば、単体黒字も完全に視野に入れる事ができそうですね。実際生き残り続ける吉祥寺の3店を見て、そんなことを思い浮かべるのでした。

コメント

  1. […] アンテナショップの考察記事でも書きましたが、生鮮食品を主力にできるというのはアンテナショップとして珍しく、やはり吉祥寺の地の利を生かしていると感じます。さらにこの店では、他のアンテナショップではなかなか見られないような独特な光景を見る事ができます。 まず、店員が大体オバチャンで、レジ周辺で井戸端会議が始まっている光景をよく目にします。熊本から派遣されたおばちゃんというわけでもなく、きっと地元の方なのでしょうが、これが店側の意図なのかは不明です。 取り扱いの品として、お惣菜、点心、ソフトクリーム、いきなり団子などのテイクアウト系が充実しています。ある意味で旧ハモニカ横丁や旧チェリーナードの入り口付近に位置取っていたお惣菜屋さんの系譜であるのかもしれません。 酒類の充実もうれしいところですが、これはまた別の機会に書きましょう。 そして、2階の郷土料理屋では郷土料理のセットなどと一緒に、熊本のとんこつラーメンを提供しています。 Posted under グルメ,ダイヤ街,ローズナード,井の頭公園エリア,買い物 and tagged with グルメ, ラーメン, 甘党, 買い物 Comments (0) […]

  2. […] 地域内アンテナ書店という、なかなか耳慣れない言葉は、私の勝手な造語です。念頭に置いているのは、以前概説記事を書いたアンテナショップの中のさらなる一ジャンル、地域内アンテナショップです。 地域内アンテナショップとは、観光地の玄関口に出店するその地域の隅から隅までの名物をカバーした店のことで、観光PR上ひとくくりにされる地域が広域にわたり、また域内の交通アクセスが必ずしも良くない場合に出現するようです。代表的な地域内アンテナショップとして、岐阜県高山市の飛騨高山アンテナショップ「まるっとプラザ」が挙げられ、この店舗は日本一広い面積をもつ高山市の、奥まった地域について紹介するという主旨になっています。 特筆すべき点は、地域のハブとなる立地における、より深い地域情報の提供が旅行者、在住者それぞれに訴求するコンテンツだということで、これから地域を巡る地図が欲しいという旅行者のニーズと、地域に目を当てたい、地域内の何かめぼしい話題が知りたいという在住者のニーズは、相補的に店の賑わいをつくりだします。アンテナショップの名前通りの、何か情報が手に入るというイメージ。これは集客の大前提であるとともに、上手く回った場合の爆発性を秘めているのです。 […]

  3. […] 吉祥寺には自治体アンテナショップの出店が多い、ということについては、以前昨今の自治体アンテナショップ事情と吉祥寺という記事で紹介した通りです。全部で3店のアンテナショップが、吉祥寺に比較的根付いて営業しているという状況に変わりありません。 3店のうち、熊本県のアンテナショップ、くまもと物産館以外の2店は、中道通りにほぼ向かい合って営業しています。古陶器やオシャレなカフェやらミニカーカフェやら、かなりオールジャンルの店が雑然と並ぶ中道通りですが、八百銀という八百屋が長く営業していることからわかるように、地元の方が生鮮野菜を買いにもやってきます。そうした中道通りに最初に出店した高知屋のテーマが、高知産野菜の販売であったという事で、目の付け所がよくて長続きしているのではと思います。 […]

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