優雅な不便をこそ味わいたいものです。
高架下から変わり始めている街、武蔵境
最近武蔵境駅の先に武蔵野市内では初となるクラフトビール醸造所、26Kブルワリーがオープンしたおかげで、これまでの散歩コースを少し延長して武蔵境方面に足を延ばすことが多くなりました。26Kブルワリーが入居しているのはOndというシェアリングスペースで、さらにそのOndは武蔵境駅と東小金井駅の間の中央線高架下にあります。この高架下に出来た商店街のことをJR東日本は”ののみち”と名付けているらしく、フリーペーパーライブラリのヒガコプレイスなど、意欲的な新店の多くがここに入居しています。
何故高架下に新店が集まっているのかというと、武蔵境を昔からよく利用する人には周知の話でしょうが、このスペースが2009年に完了した中央線高架化によって新たに出来あがったものだからです。Ondの店先から西の方角を眺めると、かつて線路が敷かれていた場所を潰して作った新道がずうっと西側に伸びているのが分かります。
この道の開通と”ののみち”開業のおかげで、武蔵境と東小金井の商圏で横方向の一体感が出来たようにも思われます。武蔵境といえば駅の北側に伸びるすきっぷ通り商店街が一番活気のある場所、といったイメージは、これからどんどん変わっていくのかもしれません。
一番街通り商店街にある焙煎豆専門店
中央線に並行して走るヨコ道。武蔵境にこれまで無かったわけではありません。南口側はイトーヨーカドーや武蔵野プレイスをはじめとした大きな建物が目立ち、一見商店街的な部分はあまり無いように見えますが、タテに進まず出口から東小金井駅側に折れますと、ヨコ道の商店街が2筋出来ています。北側にある線路よりのそれが武蔵境一番街通り商店街で、南側のそれ、天文台通りが一瞬狭くなっているところにあるのが境南協栄会商店街。どちらの筋も100年以上前、武蔵境駅がまだ境駅であったころの地図に載る古い道であり、立ち並ぶ店も新旧のものが混在していて、非常に趣のある商店街となっています。
そして今回の記事で紹介する焙煎豆専門店、コーヒーロースト武蔵境店もこのヨコ道に入口を向けてお客を待っているのでした。
コーヒーローストのシステムと、武蔵境店の雰囲気
“コーヒーロースト”という店名は、別の街で営業している焙煎豆専門店の名称として記憶している人も多いかもしれません。フランチャイズ制をとる(もっとも、この会社のホームページを見るとフランチャイズ制でなくグループ制と断っていますが)会社で、グループ店は日本全国に100店舗以上あるようです。コーヒーローストのシステムでは、焙煎豆専門店を開業したいという方に対してノウハウを提供し、生豆や各種コーヒー器具などを卸したり、焙煎機を提供したりするそうです。コーヒーは生豆の状態で店頭に並べられ、客が選んだ豆を客の好みに合わせてその場で焙煎するというシステムを特徴としているようです。
したがって、豆を注文してから客の手許にわたるまでの時間が必然長くなります。その待ち時間は店内で過ごすことになるわけですが、武蔵境店では豆を焙煎するパチパチという音を聞きつつ、サービスとして出されるコーヒーを飲みながら待つかたちになります。コーヒーロースト武蔵境店は喫茶店的な営業も同時に行っているため、店内には豆が焼き上がったらそれを持ってすぐにでも店を飛び出したいという層と、むしろ店内でより多くの時間をゆったり過ごしたい層とが同席しています。これが面白いもので、最初は一刻も早く目的を終えたいと思い待つ不便を強いられていた客も、だんだんと時間を楽しむ層に引きずられて待ち時間を喜ぶようになっているように見えるのです。ふと店内を見回してみると意外と広い年齢層の客がいるのだな、とか、店内に置いてある冊子が新たな号に変わっているなとか。次第に自分の居る空間に対しての興味が膨れ上がってきます。
賑やかで歩きにくいタテ道に対して、ヨコ道の商店街ではあくまで事務的にササッと豆を買う用事を済ませられるのかと思っていたら、存外その魅力に足を取られてしまったのかもしれません。”ののみち”も現在でこそ無機質で直線的なイメージではありますが、段々と武蔵境の色がついて変わってくるのでしょうかね。
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