2017年上半期の吉祥寺一大ニュースが井の頭公園の100周年であるとするならば、下半期のそれは色々とお騒がせであったココロヲ・動かす・映画館 ○(通称ココマルシアター)のオープンではないかと感じていたのですが、2017年も最後の月に足を踏み入れた12月1日に、新たなビックリするようなプレスリリースが舞い込んできました。
吉祥寺PARCO地下2階に5スクリーンミニシアターのオープン
プレスリリースを行ったのは、有限会社アップリンク。1987年に設立され、インディペンデント系の映画を中心に数多くの作品の配給を長く行ってきた会社です。また、映画の製作会社としてはBBCやチャンネル4との共同製作作品や、黒沢清監督作品『アカルイミライ』などを手がけており、さらに1999年からは映画上映スペースUPLINK FACTORYをオープンして映画作品の上映も手がけ、現在ではアップリンク渋谷という3スクリーン合計142席のミニシアターを運営しています。
今回発表があった吉祥寺の新映画館は株式会社パルコとの共同運営となり、場所は吉祥寺PARCOの地下2階で、5スクリーンの座席数合計300席を予定している模様です。オープンは2018年冬と発表されており、映画館の設備充実のために一部はクラウドファウンディングによる資金調達も計画しているとのこと。まるまる1年先のこととなってしまいますが、新たな映画館のオープンにより吉祥寺の街がどのように変わっていくのか、今から楽しみです。
気になってしまうココマルシアターとの関係
誰しも気になるのが、度重なる延期の末今年の10月21日にオープンしたココマルシアターとの関係です。まず両者の位置がそれほど離れておらず、インディペンデント作品中心の配給会社運営のミニシアターということでも共通しています。クラウドファンディングを活用して一部の資金をまかなうつもりであるというのも、共通点として挙げられるでしょう。
そして、ココマルシアターの支配人樋口義男氏と、アップリンクの代表浅井隆氏とは互いに面識があるようです。ココマルシアターのオープン以前に樋口氏はアップリンクの映画館運営に関するワークショップに参加しており、その際に浅井氏は助言なども行ったとのこと。そしてそういった縁もあってか今年の4月にココマルシアターが一旦プレオープンした際、自身のメディアであるwebDICEに詳細な写真付レポート記事を上げて、まだ完成にほど遠い状態のココマルシアターの実情を、ときに批判的な言葉も交えながら伝えたのが他でもない浅井氏であったのです。
現在その記事は樋口氏側の要望により取り下げられ、記事の跡地だけが残されています(webDICE)。レポート記事が大きな反響を呼んでその後僅か4日あまりで取り下げられたことについては色々と憶測を呼びましたが、取り下げの理由として”今後の「ココロヲ・動かす・映画館◯」の運営に影響を与え続ける“ため取り下げたと書かれており、レポート内に挙げられていた諸々の問題点について樋口氏側から納得のいく説明を受けて取り下げに至ったというわけではないのであろうと読める書き方でもあります。
ココマルシアターのオープンはアップリンク吉祥寺への切欠となったのか
そうなると、ココマルシアターが既に存在する吉祥寺に新たな映画館を作ることになった動機についても考えてみたくなります。可能性の一つとして、ココマルシアターのオープン如何に関係なく、既に吉祥寺でのオープンは話が進み始めていた。そこでアップリンク側である浅井氏がココマルシアター批判の記事を掲載し続けていると、真意はともかく競合に対する露骨な営業妨害に見えてしまう。そのため記事を取り下げて以降は沈黙に徹したというケースが考えられます。これはwebDICEの発表記事の中で、5年ほど前から渋谷に次ぐ新たな映画館の場所探しを考えており横浜と吉祥寺が候補に挙がっていたという内容が語られておりますので、辻褄の合わない話ではありません。
もう一つの可能性、ココマルシアターのオープンとその後の運営状況が、アップリンクが吉祥寺に新たなミニシアターをオープンすることの切欠となったというケース。今は消えてしまっているwebDICEのレポート記事の中では、当時の状況を見て浅井氏が”観客、配給会社、映画製作者、クラウドファンドで寄付をした人、吉祥寺に映画館ができることを楽しみしていた人、全ての人を「バカにしないでほしい」という言葉しか思い浮かばない。“と語気を強めていましたが、実際にこの感想が浅井氏の本心で、吉祥寺の映画館はこんなものであってはならないという思いが新映画館の計画を具体化させたのではないかという可能性です。
後者の場合、アップリンク吉祥寺のオープンはココマルシアターを置き換えてしまうことを狙っているのか、あるいは共存をしつつインディペンデント作品系シアター間での競争を引き起こし、ココマルシアターと切磋琢磨してサービスの質を上げていこうとエールを送っているのかわかりません。ただココマルシアターが現在も根強い批判に晒される原因であるところのクラウドファンディングをアップリンク側もあえて採用するあたり、ウチのやり方は出資者との約束を果たして双方満足となる結果にするよ、という挑戦状を叩き付けているようにも見えます。奇しくも樋口氏と同様に浅井氏も吉祥寺の隣街西荻窪に住んでいた経験があるといい、またアップリンク最初の配給作品上映がされたのは今は亡きバウスシアターであったそうです。ココマルシアター側のポスト・バウスシアターとしてのファウンディングPRがなかなか果たされていない現状、(あくまでアップリンク側の正式な明言はありませんが)バウスシアター的なものを吉祥寺に復活させようという試みの灯火が、まだ消えてはいないということを示そうと動かれている、という見方も出来るのかもしれませんね。
(完全な余談ですが、PARCOの地下2階に映画館が入るとなると、パルコブックセンターがどこに行ってしまうのかと多少不安でもあったり…)
(2018.6追記)
地下2階のパルコブックセンターは7月29日に閉店、その後アップリンク吉祥寺の工事が始まるようです。
1980年にオープンして以来38年間営業を続けてきたパルコブックセンターですが、別の場所に移転することもなく吉祥寺での営業を止めてしまうそうです。非常に残念なニュースではありますが、PARCOの他のフロアも含め目まぐるしい変化があったなか、まずなによりも38年間の営業お疲れさまでしたとねぎらいの言葉をかけたいところです。
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