成蹊前ラーメン 生郎跡地を自称する二郎系ラーメンの味やいかに

大学キャンパスの近くにあって、学生が足しげく通い詰めるラーメン屋というのは、学生の要求にこたえられるように独特な進化をしていく場合があります。その日本で最も有名な例というのは、なんといっても慶応義塾大学三田キャンパスの近くにあるラーメン二郎でしょう。
現在ではその盛りのダイナミックさや注文時の”コール”など、ラーメン二郎の真似をして提供している店のことを”二郎インスパイア”やら”G系”とやら呼び、スタイルが固定されてしまっている感がありますが、元々は普通の盛りのラーメンを提供していた店が、学生の要求に柔軟に対応していった結果、二郎のスタイルが出来上がったというから驚きです。

成蹊大学すぐ横 ラーメン生郎

そのラーメン二郎の暖簾分けシステムは、基本的に本店または直系店で修行した人間が厨房に立ち続けるのであればラーメン二郎を名乗ることができるというものです。1986年に成蹊大学横に出来たラーメン二郎も、黄色い布地に赤文字で”ラーメン二郎”と堂々と掲げた直系店でした。ただ、有名な話ですが、この看板が隣の成蹊大学の学生によって頻繁に悪戯され”ラーメン生郎”となってしまい、最終的にはそれが店名に固定されてしまったようです。ある意味で、学生の要求によってラーメン屋が進化したケースと言えるかもしれません(笑)。

ラーメン生郎/成蹊前ラーメン

提供していたラーメンは、二郎本店と分化した時期のこともあり、どちらかというと現在の二郎スタイルよりもまだ学生の要求に対して試行錯誤中であった昔の二郎に近かったと言われています。また、生郎への改称以降にはこの店独自の進化として麺の太さを細麺に変更したという経緯もあり、学生がいわゆる二郎系のボリュームを求めて店にやって来ても、期待に沿わず肩すかしを食らうことも多かったようです。

2015年 生郎の閉店と成蹊前ラーメンの登場

末期には店名がほとんど読めなくなるくらいボロボロの外観になっていたラーメン生郎ですが、2015年4月についに閉店してしまいます。閉店の報が流れると、ネットやSNS上では惜しむ声が沢山。反応した人々が生郎の味のファンであったのかどうかは定かではありませんが、成蹊大学周辺や吉祥寺において象徴的意味合いもある店だっただけに、喪失感は確かに大きかったのでしょう。
店の取り壊し工事も始まる中、ネット上に新たな情報が駆け巡ります。閉店した生郎の跡地が、再びラーメン屋になること。そして、生郎の後に入居するラーメン屋のTwitterアカウント名が、namaro_atochi(生郎跡地)であるということ。
生郎跡地のラーメン屋は、成蹊前ラーメンという店名で2015年6月にオープンしました。刷新された黄色に赤文字の看板。開店後のラーメンフリーク達によるレポートでは、生郎の特徴とも言える、もやしの上に一味唐辛子が隙間無く振りかけられた写真が載せられていました。これは生郎の灯火が、次代に引き継がれたと思っても良い?生郎ファンの期待も膨らみます。
ところが、開店後しばらくの成蹊前ラーメンの評価は、どちらかというとネガティブなものが多数でした。曰く、「生郎を完全に再現できていない」。生郎ロスの状況に対して、手を差し伸べたら却って反感を買ってしまったということなのかもしれません。
私自身も、オープンして少し落ち着いた頃(生郎のルールを引き継いで、店内写真撮影禁止の頃です)に一度足を運んでみたのですが、唐辛子がたっぷりかかったラーメンから立ちこめる香りに魅力を感じながらも、イマイチパッとしない、不完全な二郎スタイルだなという感想を持ちました。

“生郎インスパイア”を企画物にして店の立場を明確に

実際、成蹊大学の横の立地で学生に求められているのは、やはり現代的な二郎インスパイアの、ドカ盛りラーメンだったのかもしれません。生郎の閉店を惜しむ人々から一時的に生郎の味への需要が起こったとしても、結局思い出の中で増幅されてしまっている味には太刀打ちが出来ないでしょうし、”生郎跡地”の一本槍では早晩潰れてしまうのではないかと心配しておりました。とは言え、”生郎跡地”の看板を突然下ろしてしれっと別の味を出しても、不義理であるとの誹りは免れませんし、どうしたもんだろう、と気になっていました。
そして先日、何気なく成蹊前ラーメンのTwitterをチェックしてみると、面白そうな企画が書かれていました。それが、旧二郎町田店のMO(町田オリジナル)の再現。二郎町田店は、南町田にあった二郎の支店で、3年程の営業期間であったにもかかわらずMO(町田オリジナル)と呼ばれるオリジナルメニューが人気で、惜しまれつつ閉店した二郎です。
期間限定でその味の再現に挑戦する企画。何故生郎の跡地で町田店の再現をするのか、一見すると不可解に見えますが、もう一つ期間限定企画として記載されていたのが、『生郎requiem』という生郎味の再現挑戦企画。なるほど自分達はあくまで生郎の後継者ではなく、生郎味への挑戦者なのですよと示すことで、「生郎を完全に再現できていない」という誹謗を挑戦することへの応援へと変えさせていたのです。町田店を引っ張り出してきたのは、挑戦者としての立場を明確にするため。これで看板メニューのラーメンについては、本来の学生のニーズに沿った味だけを追求していくことが出来ます。

学生向け二郎インスパイアとして、合格じゃないでしょうか

そんな『生郎requiem』の企画は、4月中の13:00から限定で提供しているようです(期間残り少ない!)。限定企画が終了すると、常設メニューとして『feat.生郎』というものもあるらしいのですが、生郎の麺の再現までされているのは企画物だけです。まあ、私自身は生郎の再現よりも、生郎再現という肩の荷の下りた他のラーメンの方に興味があったのでそちらを目当てに行ってきました(ガッツリ食べたい気分でしたし)。

店名は未だに健在。当たり前ですが

店名は未だに健在。当たり前ですが

メニューを見ると、以前うかがった際には見られなかった、『FAT』というメニューがあります。このメニューは、タレやスープ、脂がMOリバイバルメニューと同じバランスで、名前どおり脂質がとっても多めなラーメンであるようです。
注文は『FAT』700円の大盛り+10円。無料トッピングサービスをやっていたショウガに、ヤサイ、ニンニク(だったかな?)。

成蹊前ラーメンの『FAT』

成蹊前ラーメンの『FAT』

もやしの頂上にひき肉がトッピングされているので、見た目的に大変落ち着いて見えます。ショウガとニンニクがそれぞれ器の脇に。大きなブタ。それから、生郎由来っぽい一味唐辛子。写真で判別できるくらいの、スープの脂の層(ちなみに、写真撮影は解禁になったそうです)。どこから掘り進めていこうか、どことどこの味を一緒に楽しもうか、見た目的にワクワクするラーメンです。スープをレンゲに一杯掬ってみると、ほとんど脂。次にそれほど固ゆでではない太い麺を引っ張り出して、啜って、ショウガと絡ませて、ニンニク…と箸が進みます。アブラをトッピングコールしなかったのは正解で、スープ中にこれでもかと白い塊が浮いています。
迷い箸が起こるくらいトッピングのバリエーションが合ったので、苦もなく結構ペロリと平らげられてしまいました。結構なボリュームだったのは確かですが。最後まで大切に取っておいたブタが、ラーメンのオマケという感じではなくジューシーで味の染みた逸品だったのも評価が高いです。これなら、お腹を空かせた学生も満足でしょう。
学生と言えば、店内私以外は学生が多かったのですが、非常に大人しい感じの雰囲気で。店のスタッフも二郎系の店とは思えないくらい威圧感が無く、どちらかというと小声な方でした。カウンターの向こう側に転がった焼酎のパックを眺めて、生郎味の再現用のものだと気付きつつ、そんな独特な製法のラーメンをかつて提供していたのか、そりゃあレギュラーメニューには怖くて出来ない…と納得するのでした。

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