わだぺん。『東京自転車少女。』 美少女と練馬と照姫伝説と

桜が咲き始め、ようやっと春の実感も湧いてきました。そして、今年も石神井公園で行われる照姫まつりが待ち遠しくなってきました。
照姫まつりとは、石神井公園でだいたい4月の終わり頃に行われる、石神井城の戦いをテーマとした祭です。照姫というのがこの戦いで三宝寺池に身を投げた悲劇の姫と言われているのですが、よくよく調べてみると…といったところの話は、昨年記事にしていましたね。また、照姫伝説を題材とした漫画として、細野不二彦『東京探偵団』の『石神井城異聞』を紹介していました
折角ですし、今年の照姫まつりを間近に控えて、今度は照姫伝説を描いた”連載中の”漫画を紹介いたしましょう。

『東京自転車少女。』とは

月刊コミック・アース・スターという雑誌で連載中の『東京自転車少女。』。アニメの美少女キャラクターのような絵柄のこの漫画は、タイトル通り、自転車によるポタリング(散策的なツーリング)をテーマとした作品です。ただし、タイトルの”東京”は全て練馬で完結しており、練馬で美少女キャラクターたちが自転車ツーリングする高校部活動ものという、非常にニッチなところを追求した作品となっています。

舞台を練馬に絞っていることで、必然練馬という土地への掘り下げは深くなっています。主人公的キャラクターの一人「加藤さん」は、たいそうな美貌の持ち主ゆえ、物語中でたびたび「照姫」に喩えられることとなります。そう、照姫伝説の照姫です。そしてこのあまりにもローカルな物語の中では、照姫伝説さえもがスケールの大きいドラマになってくるのです。

街探訪ものとして『東京自転車少女。』のもつ面白さ

とは言え、主人公たちが通う豊珠高校があるのは桜台。基本的には、練馬区の東部を中心に話が進みます。作中では、豊珠高校の寮ないし部室を出発点とした街中でのポタリングで、奇妙な実在物が”発見”され、描写されます。この漫画を面白くしているのは、なによりもまず、見境のないピックアップの視点であると言えるでしょう。
「加藤さん」と同じく主人公的存在である「島野いるか」という少女は、故郷の島を離れ上京してきたという設定です。奇妙な実在物を発見する役割を多く担うのがこのいるかですが、たとえば新聞の自動販売機など、東京に住んでいる人間からすれば何の疑問も抱かない物もピックアップされます。
物語の作者わだぺん。さんは、岐阜県から上京し、アニメーターとして練馬区江古田の会社で働いていたという経歴の持ち主。実際にいるかと同じように上京という体験をされているわけで、東京の奇妙さを発見するいるかの視点というのは、作者の視点でもあるというリアリティがあります。アウトサイダーが縁のない土地に初めて降り立って、そこでの生活を通じてだんだんと地図を描いていく。この最初の地図に配置されるのは、それぞれ脈絡や関係性のない対象物ばかり。しかしそれらの対象物は、アウトサイダーのもつ地図の上では関係を持ち輝く。見境のないピックアップとはそんな現象なのです。
そして、もう一人の主人公、東京住民として生まれた加藤さんは、いるかに対し半ばあきれつつも、見慣れた風景に新しく息を吹き込む彼女の感性を羨ましく眺めます。読者はもちろん、二人の内どちらに感情移入をしても良いわけで、二人の主人公を上手く活かした語り口であると言えるでしょう。

普段描かれる対象ではない物の描写の細かさも面白い

ポタリングでのピックアップの対象は、観光スポットから何気ないビルから立て看板、自販機のラインナップまで。これらの対象物は、この狭い練馬を対象とした漫画でピックアップの機会を得なければ、きっと漫画に描かれるこということはなかったことでしょう。
単行本2巻のミッションでは、練馬区に存在する富士塚を自転車で巡ります。少年誌に掲載される漫画に、細かい書き込みとともに描かれる富士塚というものを見ると、その意外性、場違い感に興奮せざるをえません。そういった意味で、この2巻の富士塚巡りの話は、本当におススメしたいところです。

オマージュの安定感と、『東京探偵団』との相似

ミッションと書きましたが、ポタリングの動機の一つに、主人公たちの所属する「自転車天使部(チャリーズ・エンジェル)」のスポンサーからの指令をこなすというものがあります。部の名称から分かるように、チャーリーズ・エンジェルのエンジェルたちがボスからの指令をこなしていくという構図のオマージュであり、こうした安定した物語構造の存在が、ともすれば地域情報のつまらない羅列になってしまいがちの街探訪ものを引き締めています。
地域の紹介とオマージュの組み合わせは、偶然にも同じ照姫伝説を扱った漫画である、『東京探偵団』でも見られたものでした。『東京探偵団』の場合はオマージュ元となっているのは少年探偵団ですが、この2つの漫画の相似性と、それぞれの漫画が描かれることになった時代背景について考えるのも面白そうです。

『東京自転車少女。』が描く照姫伝説

さて、随分と長い前置きになってしまったかもしれません。肝心の照姫伝説が『東京自転車少女。』でいかに描かれるかということですが…まだ連載中の作品なので、期待して待つしかありません(笑)。
実は、現在既に刊行済の最新刊が5巻、4月12日に発売されるのが6巻。この最新の2巻で扱われているのが、まさに照姫伝説なのです。6巻の発売タイミングは、まさに今年の照姫まつりに合わせてきている感もあります。そこで、今年の照姫まつりの予習作品としては、『東京自転車少女。』を推させていただきたい(笑)。

この作品を読む際の注意点としては、少年誌に連載されている作品のためか、扇情的な描写が非常に多いということです(それは東京探偵団にも言えることですが)。逆に言うと、最近の漫画をあまり知らないという方が題材に興味を持ち読んでいただければ、最近の少年漫画の傾向が大体掴めてくると思います(笑)。

きっとこの作品もそのうちアニメーションなど別のメディアに展開するのではないかと思うのですが、実写作品にするという無粋なことだけはやめて欲しいと、切に願っています。いや、あえて対象物を一切映さないという形でなら映像化も…それですと、練馬区に経済効果があまり無いかもしれませんね。

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