春の訪れは、同時に冬の終わりでもあります。冬の人気のない公園を歩いて、メタセコイアの独特な幹をじっくり眺めるという趣向も、次のシーズンまでお預けとなるということですね。
メタセコイアの素晴らしさについては、既に何度か語ってきたことと思います。チュロスのような幹が美しく、力強い。また、古代の武蔵野に繁茂しながら、一度絶滅、そして中国経由でまた日本に帰ってきたというエピソードも魅力的です。
そのメタセコイアと樹影、樹高とも似ていることもあり、しばしば取り違えられてしまうのがラクウショウです。三大湧水池にはメタセコイアもラクウショウもあるので、混乱することも多い。そこでこの2種類の樹木の見分け方を、石神井公園を例に解説してみましょう。
ラクウショウとは
ラクウショウとは、ヌマスギとも呼ばれるスギ科の植物です。漢字で書くと、「落羽松」。その名前は、秋の紅葉の頃になると、葉っぱがひらひらと羽のように落ちることから来ています。
ラクウショウの原産地は北米・メキシコ。メタセコイアと同じく、湿地土壌を好んで生育します。かつて日本でも見られた樹木ということも共通しており、中生代から新生代の化石として発見されます。メタセコイアと同じく、地球全体の気候の寒冷化とそれによる生物種の淘汰を乗り越え、一時的には世界中で大繁栄していたということですので、特に日本の環境を好んで定着していたというわけではないようです。そして、続く気候の変動と植物の多様化にともない、日本列島からは一度失われます。
現在日本で見ることの出来るラクウショウは、明治時代以降に国外から導入されたもので、特に公園林を構成する高木としてメタセコイアとともに好まれています。
ラクウショウとメタセコイアの見分け方
さて、このように導入経緯が似た2種類の樹木ですが、大きな違いがあります。それは、ラクウショウはメタセコイアにはない、呼吸根を持つということです。
呼吸根というのは、空気を取り込むために地表に出す根のことです。湿地環境に適応するための知恵だったのでしょう。ラクウショウの樹の周りを見渡すと、蟻塚のような呼吸根が沢山生えているといったことがあります。
呼吸根は芸術的!でも公園での扱いは…
上の写真でも見て取れるように、ラクウショウの中には幹の形まで本当にメタセコイアにそっくりという個体があります。それでも、周囲に呼吸根が生えていれば見分けは簡単でしょう。問題は、公園管理の観点からはこの呼吸根が邪魔であり、人の手によって取り除かれてしまうことが多いということです。
なにしろ、高さは数cmから数十cmにまで育ちます。公園の歩行者や自転車が呼吸根に引っかかり躓いてしまうという危険性があるのです。特に茂みの中に隠れる大きさの呼吸根があれば、遠目にそれを判別することはほぼ不可能なのです。
そこで、丸裸にされてしまうラクウショウが多いのは事実。ますますメタセコイアとの見分けがつきにくくなるというわけです。
一応、その他の見分け方として、葉の生え方がラクウショウの場合交互になっているというものや、落葉がメタセコイアより早いといったところの違いもあります。また、ラクウショウの幹は比較的平面的で、チュロス状態になっていない個体も多いようです。
けなげに生き残った呼吸根を探すのが楽しみ
このように公園内で不遇の扱いを受けるラクウショウ。しかしそれだけに、運良く生き残った呼吸根を探すというのが楽しみになったりします。たとえば、公園の通行者の邪魔にならない、柵を越えたところに呼吸根が残っていることがあります。
また、先程挙げた例のように、ラクウショウの周囲を一段高く盛って、通行人の侵入ができないようにして呼吸根を保存している場合もあります。
ラクウショウが生えているとつい呼吸根を探したくなってしまいます。公園の仲間として迎え入れるのならば、なんとか呼吸根の観察ができる状態をつくって欲しいところですね。
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